昔、私たちが教科書で習ったことが今では間違いとされていることが数多くある。例えばネアンデルタール人。昔、私が小学生のころ教科書で習ったネアンデルタール人の姿は毛むくじゃらの猿のような姿の猿の惑星に出てくるような猿人であった。だが上野の国立科学博物館に現在展示されているネアンデルタール人はヨーロッパ人を思わせる色白で目鼻立ちがクッキリしている古代人の姿に変わっている。理科のテストにこんなのが出されたら私は間違いなく落第点を取っていたであろう。
今回は近年ゲノム解析など研究技術の進歩により判明してきている事実の話を一つしようと思う。ちなみに私は科学技術の専門家でもなく研究者でもなくただの鹿撃ちの猟師である。
2022年1月9日岐阜新聞23面にこのような記事が掲載された。
『犬は東アジアに生息していたハイイロオオカミから進化した可能性が高く、20世紀初めに絶滅したニホンオオカミが最も近縁だとする研究結果を、総合研究大学院大や岐阜大などのチームが8日までにまとめた。ハイイロオオカミの亜種とされるニホンオオカミの残された骨からDNAを調べ、系統関係を分析した。
査読前の論文をウェブに発表した。チームの寺井洋平・総研大助教(進化生物学)は「東アジアのハイイロオオカミが、犬とニホンオオカミの祖先に分岐したと考えられる」と指摘。米科学誌サイエンスのニュースは、ドイツの専門家が「これほど犬に近縁のオオカミの集団は初めてで、正しければ非常に重要な研究だ」と評価したと伝えた。犬が人と暮らすようになった地域の解明に役立つ可能性があるという。
ハイイロオオカミは北半球に広く生息。地域によってさまざまな亜種と呼ばれるグループを形成している。犬はかつて存在したハイイロオオカミのグループから進化したとする説が一般的だが、誕生の詳細な時期や場所は分かっていない。
チームは、日本や欧州の博物館などに保管されている9頭のニホンオオカミの骨からDNAを採取して分析。柴犬やプードルといった世界各地の犬やオオカミの仲間と比較し、ニホンオオカミが犬の系統に最も近いことを確かめた。
ハイイロオオカミは、欧州や中東から東アジアに生息域を広げたと考えられている。チームは、東アジアに移動したグループから犬とニホンオオカミの祖先が誕生し、犬は世界各地に広がったと推測した。
また、ニホンオオカミと犬の祖先が、分岐後に交雑していた可能性があることも分かった。特に日本犬にはニホンオオカミと同じ4種類の遺伝子があり、寺井助教は「日本犬のとがった耳の形や食欲などの特徴に関係しているかもしれない」と話している。』
新聞にはここまでしか書かれていないが他にも解ってきた研究結果をまとめるとこのようになる。
結論1
ニホンオオカミのタイプ標本とされているオランダ国立ライデン自然史博物館の2体
シーボルトのヤマイヌ→犬とニホンオオカミの交雑種
シーボルトのオカメ→ニホンオオカミ
幕末のシーボルト事件で有名なシーボルトであるが日本でオオカミを商人から買って2匹標本として持ち帰っている。そのうち一頭のヤマイヌと呼ばれる個体がタイプ標本とされ今日までニホンオオカミの基準とされていた。だが今回の研究で世界基準が間違いであったことがわかったわけである。ちなみにタイプ標本とは、ある生物を新種として登録する際にその根拠となる基準の標本。基準が最初から間違っていたのであるからニホンオオカミ研究は全くもってグチャグチャに惑わされっぱなしになるわけだ。
結論2
ニホンオオカミは独立した亜種であった
結論3
ニホンオオカミの中に集団構造があり四国由来の大型の個体は古い系統の可能性がある。
結論4
日本犬種のゲノムには過去の交雑によりニホンオオカミ由来のゲノムDNAが含まれていた
結論5
犬の古い系統で過去にニホンオオカミとの交雑があり、その系統の子孫が日本列島、インドネシア、オーストラリアに生き残っていることが判明した。日本犬だけでの祖先でもさらに交雑があったと推測された
今までは世界各地域に渡ったハイイロオオカミが各地で亜種になりその一つがニホンオオカミであるという説とニホンオオカミは別種であるという説があった。しかし今回の研究結果では東アジアに生息していたハイイロオオカミがニオンオオカミの祖先と犬の祖先の2系統に別れたことがわかった。
その後、ニホンオオカミの祖先は日本へ渡りニホンオオカミに。一方、犬の祖先はニホンオオカミノの祖先と交雑し日本へ渡り。これが日本犬の祖先となり後々の日本犬となる。
さらに日本に渡った日本犬の祖先もニホンオオカミと交雑し、ニホンオオカミと交雑した日本犬の祖先も後々の日本犬となった。
日本犬にはこの2系統ありニホンオオカミの血統があるということだ。
別の研究ではオオカミと世界中の犬種のDNAを調べ、オオカミの遺伝子に近い犬種を調べたところ、世界中で1位だったのが日本犬代表の芝犬だったことも解っている。そのことから世界中から見てもニホンオオカミと日本犬の密接な繋がりは相当深いものだったことがわかる。
残念ながらニホンオオカミは明治末に奈良県東吉野村で捕獲されたオス1頭を最後に私たちの前から消えてしまった。生きている姿を残している写真や映像も一つもないので私たちはその勇姿を見ることも出来ない。しかしこうやって私たちの側で無邪気に遊んでいる日本犬の身体の中で彼らは今でも遠吠えを繰り返しているのかもしれない。
0コメント